一期一会ーー一時一時を大切に、人との出会い、物や自然との出会い、その瞬間
お茶の先生や気功・武道の先生のお薦めもあり、本年75歳で他界された樹木希林さんを偲びつつ、映画『日日是好日』を観に行った。映画館に足を運んだのは久しぶりのこと。
高校の時、留学前にお茶を習ったことはあったが、全て忘れていた。50を過ぎて、半世紀を生きてくると、人生に対する向き合い方が変わってきた。日本人に心からなりたくて、改めて始めたお茶のお稽古。その心も学べるかと思って映画を見に行った。
黒木華が演じる主人公。真面目で努力家で、理屈っぽいけど、不器用でおっちょこちょい。人生で躓くことも多いけれど、歌ったり踊ったり、海が好き。自分の性格や人生と似ていて、重ねて見ていると、時々涙がこぼれた。
雨の日は雨の音を聴く。晴れの日は日照りの太陽を感じる。そんな異なる毎日の自然の中で日本人は、四季を楽しみ、自然を慈しみ生きてきた。だから、自然災害が続く日本列島の各地で生活しながらも生き延びてきた。自然を克服するより、自然と共存することを選択した。
華道の先生は、「花のことは花に聞きなさい。」とおっしゃる。生け方に困ったら、頭や理論ではなく、自分の目の前にある花と対話しなさい、ということだ。私は、ある時、柱にぶつかって、思わず、「失礼。ごめんなさい。」と言っていた。はたから見たら、変な人だと思ったかもしれない。人に対してならともかく、柱に対して謝るなんて。でも、おそらく、「花に聞いてみる」姿勢と共通する点があると思う。花も話すわけではない。しかし、目の前にあるものと対話することで、そこに「一期一会」が生まれる。
路傍の石にも、一寸の虫にも、野の草にも価値を見出す日本人。八百頭の神様は、どこに潜んでいるか分からない。生きとし生けるものを大切にするのが日本の心……。
樹木希林さんが亡くなった後に公開された『日日是好日』。茶の湯の先生としての樹木希林さんの最期の作品は、たくさんのことを教え、感じさせてくれた。脚本家も監督も、心ある方だと思う。日本の日常になる家族、人との係わり、人生の浮き沈み、見る人、それぞれに語りかける作品である。そこには、命の大切さも語られている。
今会っている人とは、明日会えなくなるかもしれない。戦国時代の厳しい社会、時代から生まれた茶の湯。だから、一期一会を大切にすると言う。その心は、現代でも変わらない。どんなに科学技術が発達しても、人の命ははかない。病気、事故、災害、テロ、原因はなんであれ、人の命は永遠ではない。でも、人が残してくれたものは、引き継がれて行く。
樹木希林さんは、75歳という、日本人女性の平均寿命頼よりもお早く亡くなられた。こうしてみると、大切なのは、何年生きたかではなく、どう生きたかなのだと思う。丁度2年前、母のように私のことを「くにこちゃん」と気にかけて下さった尊敬する女性が、やはり75歳で亡くなられた。ご自身が大病をされながらも、最期まで人のことを気にされ、人に尽くされた方だった。第一にその方に渡したかったのが、私が今年初めて出した単著『オリンピックと日本人の心』である。
この本を出して後、気になって、隈研吾さんの『なぜぼくが新国立競技場をつくるのか』を読んだ。その最後は、「だから木を使うのである。たくさん、たくさん、木を使うのである。」で締めくくられていた。
あぅ、不思議とつながった。樹木希林さんのお名前。たくさん、たくさん、木が使われている。そして、その木に囲まれているのが、希望の希。『オリンピックと日本人の心』の最後で私が掲げた拙歌が、本年4月に詠んだ「いち早く靖國に咲く五輪の花 未来に託す希望のごとし」だった。ここにも「希望」があった。本日(10月23日)に観た『日日是好日』でも、主人公の父は満開の桜の下で他界した。「寂しい桜になってしまったわねえ。」と縁側に座って主人公に話しかけるお茶の先生の樹木希林さん。そして、「桜の花のように、パッと散ってしまいました。」と答える教え子の黒木華さん。しっとりとした会話に日本人の美意識を感じた。
『オリンピックと日本人の心』は、「命」と「心」の本、とあとがきしたが、『日日是好日』は、「命」と「心」の映画だと思った。
樹木希林さん始め、多くの方の命と心に合掌したい。
0 件のコメント:
コメントを投稿