2020年4月11日土曜日

人類とウィルスの第二次世界戦争



現在の新型コロナウィルスとの戦いを、「人類とウィルスの第二次世界戦争」と名付けたい。では、「人類とウィルスの第一次世界戦争」はいつか。それは、丁度100年前に起こったスペイン・インフルエンザの猛威である。
 速水融先生(慶應義塾大学名誉教授)が2006年に著した『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』(藤原書店)の副題が、「人類とウィルスの第一次世界戦争」だった。速水先生は、昨年12月に90歳でご逝去されたが、まるで今年の新型コロナウィルスを予言して「第一次」の後、「第二次世界戦争」が来ることを示唆していた。
 100年前のスペイン・インフルエンザがなぜ「戦争」だったかは、その死者数が、それを表している。1914年~1918年の第一次世界大戦では、1000万人の犠牲者を出したが、スペイン・インフルエンザの死者数は、その約4倍、4000万人と言われる。また、日本だけ見ても、例えば、大正の関東大震災では、約10万人が亡くなったが、スペイン・インフルエンザでは、約45万人が亡くなった。当時の日本の人口は5500万人程だったかと思うと、その半数が感染し、感染者の2%が亡くなったことになる。
 私達は、歴史の授業で、第一次世界大戦や関東大震災のことは習ったり聞いたりするが、その4倍以上の犠牲者を出したスペイン・インフルエンザの事を知る人は多くない。
速水先生も、関東大震災の写真はたくさんあるのに、スペイン・インフルエンザについては奇妙な程ない、とおっしゃる。「見えない敵」との戦争は、見えるようには残らないのだろうか。
しかし、「賢者は歴史に学ぶ」というように、その歴史をしっかりと残して下さったのが、速水先生である。現在進行形の「人類とウィルスの第二次世界戦争」において、私達は、その教訓から学ばなければならない。
速水先生は、幾つかのことを教えて下さった。
①ウィルスというものは、遺伝子がRNAで、不安定であり、変異しやすい。だから、侮れない。知ったつもりの敵が、別物になって表れるかもしれないのだ。
 実際、スペイン・インフルエンザの場合、日本には、3回に分けてやってきた。第1波目が、1918年5月~7月くらいで、発熱した感染者はいたが、死者は出ずに済んだ。しかし、第2波、1918年10月~1919年5月は、11月に感染者が急増し、休校や交通・通信障害があり、翌1月には、死者が多くなり、葬儀場が混雑した。感染者の数の割には致死率は高くなかったが、死者数は26万6千人に上った。第3波の1919年11月~翌1920年5月では、死者数は18万7千人で、合計は第2波より少ないが、ウィルスは猛毒化し、致死率は5%にも達したと言う。世界中で4000万人もの人が亡くなり一定の免疫力がついて、やっとスペイン・インフルエンザは収まった。3年かかった戦争である。
②薬やワクチンは万能ではない。
 現在も新型コロナウィルスに対して、アビガン等の新薬の投与やワクチンの開発がなされているが、専門家も指摘しているように、それには時間がかかる。その間にも、感染は拡大してしまう。副作用等の危険もある。
③「手洗い、うがい、人混みに行かない」はいつの時代も有効である。
④新幹線や飛行機は即座にヒトとウィルスを運ぶ。
 科学技術の発達は、新薬やワクチンの開発等感染症の対策にプラスの作用をもたらすが、一方、交通網の発達は、。感染を拡大するように働いてしまう。100年前のスペイン・インフルエンザの時は、今のような人の移動はなかったが、ウィルスは世界に伝播した。現在は、グローバル化が進み、100年前の比ではない。恐ろしい拡散力である。
⑤ 「空気感染」は「接触感染」より怖い。
 ウィルスは飛沫感染と言われると同時に、空気中や固いモノの表面に数分間残ると言われる。だから、たとえエレベーターにヒトがいなくても、直前に乗ったヒトから感染することもあるらしい。
⑥「人間同士が争っている暇はない。」
速水先生は、2006年の段階で、警告を発していて下さった。人類共通の敵への備えが出来ていなかったのが、現在の状況である。
 通常の戦争よりウィルスとの戦争の方が恐ろしいと警笛を鳴らしたのは、ビル・ゲイツや中山太郎先生とも共通する(拙者ブログ'What human beings can learn from COVID-19'参照)。
 いずれにしても、感染症の基本対策は、隔離政策と移動制限。この新型コロナウィルス
は、世界同時に、鎖国と自宅待機等の移動制限をしないと、なかなか収束しないかもしれない。そんな危惧を抱いている。
 新渡戸稲造は、Unioin is Powerと揮毫したが、まさに世界がまとまって新型コロナウィルスに対処することが必要だろう。
参考:https://www.amazon.co.jp/日本を襲ったスペイン・インフルエンザ―人類とウイルスの第一次世界戦争-速水-融/dp/4894345021
*是非、このレビューもお読み下さい。当時も、日本の軍医さんが、自分の体調も顧みず、最期まで患者さんの治療にあたりました。今も、そんな状況があるのではないでしょうか。医療現場の皆様に感謝しつつ、負担の軽減も考えましょう。それには、感染防止と健康管理が重要です。


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